予防接種について

定期接種と任意接種

定期接種
 予防接種法で、接種について努力義務が規定されたワクチンです。接種費用については、接種対象年齢の範囲であれば、公費で負担されます。

任意接種
 定期接種以外の予防接種で、ご族の判断で接種を受けていただくのですが、病気を防ぐためには大切ですので、可能なかぎり受けてもらいたいものです。接種費用は自費になります。

接種部位について

従来から行われてきたように腕(上腕外側部)に打つのが基本ですが、下記にお示ししますように、複数のワクチンを同時接種する場合は腕の負担を少なくするために、足を使う場合もあります。足は腕よりも皮下組織が厚く、接種部位として適していると思います。

0歳の時に受けるワクチン

ロタウィルスワクチン(定期)

感染性胃腸炎の原因であるロタウイルスの感染を防ぐワクチンです。
胃腸炎の原因となるウイルスはたくさんありますが、ロタウイルスは感染力が強く、激しいおう吐や下痢、発熱をともない、乳幼児では脱水症状を起こすこともよくあります。また、けいれん、脳炎、脳症を合併することがあります。
ロタウイルスワクチンは経口接種(飲む)するワクチンで、1価と5価の2種類がありますが、効果に差はないと考えています。

ヒブワクチン(定期
ヒブ(ヘモフィルス・インフルエンザ菌b型:Hib)の感染を防ぐワクチンです。
ヒブは脳を包む膜に感染し、細菌性髄膜炎という重症な感染症を起こすことがあります。ヒブワクチン導入前の日本では、年間約600人が、細菌性髄膜炎を発症し、後遺症を残すこともしばしばでした。ほとんどが生後3か月月から4歳までに発症するので、生後2か月からの接種が効果的です。
2024年4月から、5種混合ワクチンに組み込まれています。

小児肺炎球菌ワクチン(定期)
肺炎球菌の感染を防ぐワクチンです。
肺炎球菌もインフルエンザ菌と並んで子どもの細菌性髄膜炎や菌血症(細菌が血液中に侵入している状態)といった重症感染症の原因菌として知られています。その他にも、肺炎や中耳炎など、日常診療で比較的頻度が高い重要な感染症の原因にもなります。

5種混合ワクチン(定期)
ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ、ヒブの5種類が混合されたワクチンです。
2024年4月から導入されています。ジフテリアと破傷風(2種混合ワクチン)は11~12歳で追加の接種を1回行います。百日咳は乳児(特に生後3ヶ月未満)がかかると激しい咳以外に無呼吸、けいれん、脳症を併発することがあります。近年、免疫が切れた年長児や成人の百日咳が増えており、感染源として問題になっています。

4種混合ワクチン(定期)
ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオの4種類が混合されたワクチンです。
2024年4月から、順次、5種混合ワクチンに移行しています。

BCGワクチン(定期)
結核菌によって引き起こされる結核を予防するワクチンです。
乳幼児が結核に感染すると、きわめて重症な粟粒(ぞくりゅう)結核や結核性髄膜炎を発症します。 多くは両親や祖父母からの感染です。かつて日本は結核の高蔓延国でした。

B型肝炎ワクチン(定期)
B型肝炎ウィルスの感染を予防するワクチンです。
B型肝炎には急性肝炎と慢性肝炎がありますが、低年齢のこどもほど慢性化しやすいといわれています。 慢性肝炎は成人になってから肝硬変、肝癌へと進展していくため、予防は重要です。
産道通過時に感染する母子感染のほか、輸血で感染することは昔から知られていましたが、原因が特定できない(輸血以外)こともあり、近年では感染者の涙、唾液、尿からも感染する可能性が指摘されています。

1歳以後で受けるワクチン

麻疹風疹混合ワクチン(定期)
麻疹(はしか)ウィルスおよび風疹ウィルスの感染を予防するワクチンです。
麻疹は感染力が非常に強く、高熱が続き、全身に発疹が拡がります。感染症としては重症な部類に属し、肺炎や脳炎などの重い合併症を引き起こしやすいので、確実に予防したいものです。近年、海外渡航者からの輸入感染症例が増加しています。風疹は麻疹と類似した症状がみられますが、一般的には軽症です。妊娠初期の女性がかかると先天風疹症候群という重度の障害をもった子どもが生まれることがあり、これを防ぐためにも予防は大切です。

水痘ワクチン(定期)
水痘(みずぼうそう)を予防するワクチンです。
水痘は水痘帯状疱疹ウィルスの感染によって発症し、発熱とともに、かゆみのある赤い発疹が現れて水疱(水ぶくれ)になり、全身に広がります。全ての水疱がかさぶたになるまで感染力は持続し、治癒までに約1週間かかります。合併症としては髄膜炎、脳炎、急性小脳失調などがあります。

おたふくかぜワクチン(任意)
おたふくかぜを予防するワクチンです。
おたふくかぜは、ムンプスウィルスによる感染症で、発熱と両側または片側の耳下腺(時には顎下腺)の痛みを伴う腫れがみられます。約5~7日間で自然に治癒しますが、髄膜炎、脳炎、難聴、精巣/卵巣炎、膵炎などの合併症が生じることがあります。難聴は片側に生ずるため、子どもは発症しても気がつきにくいです。

3歳以後で受けるワクチン

日本脳炎ワクチン(定期)
日本脳炎を予防するワクチンです。
日本脳炎は、日本を含めアジア諸国で流行する病気です。日本脳炎ウィルスを体内に保有しているコガタアカイエカという蚊に刺されることによって感染します。 感染しても症状が出ることは稀ですが、発症すると脳炎を起こすことがあります。 有効な治療法が無いので、予防接種によって感染しないようにすることが大切です。3歳からの接種が標準的ですが、生後6ヶ月から摂取することができます。

ヒトパピローマウィルス(HPV)ワクチン(定期)
ヒトパピローマウィルスの感染を予防するワクチンです。
子宮頸がんはヒトパピローマウィルス感染が原因とされています。発症するのはごく一部の感染者ですが、感染予防が重要です。副反応報道で接種希望者が激減している一方、日本では子宮頸がんが増加傾向にあります。20歳代という若年層からの発症もあります。

毎年受ける予防接種

インフルエンザワクチン(任意)
インフルエンザワクチンは、毎年流行するウィルスの型が異なりますので、毎年接種しなければなりません。当院では10月上旬から年末にかけての接種を予定しており、例年9月中旬からインターネット予約を開始しています。 予約開始時期についてはホームページや携帯サイトでお知らせいたします。重症な卵アレルギーのあるお子様はお勧めできませんが、重症でなければ多くは安全に接種できています。不安に思われる場合は当日ご相談ください。

当院を利用される皆様へ 

 日本で接種可能なワクチンは多数ありますが、それぞれ接種年齢、接種回数、接種間隔が決められており、免疫力の弱い乳児期に多くのワクチンが集中することから、それぞれ単独に接種していてはすべてを規定通りに終了させることは困難な状況です。 したがって、当院においても、世界的に標準化している同時接種を積極的に推し進めていこうと考えています。
 同時接種の安全性は世界的に確立されたものであり、日本小児科学会でも平成23年1月に接種するワクチンの種類(組み合わせ)、本数によらず安全な医療行為であることを公式な声明として発表しています。複数のワクチンを一度に接種して体に過剰な負担はかからないのかとの懸念もあるかと思いますが、人間のワクチンを受け入れて免疫を作り出す能力(抗原受容能力)は子供であっても底知れぬほど高いものですから心配にはおよびません。 よくよく考えれば、現行の4種混合は4種類のワクチンの混合製剤ですから1回の注射で4種類を同時接種しているに他なりません。
 また、同時接種によってそれぞれのワクチンの副反応が増強することもありません。 そして何よりも大事なのは短期間で多種類の免疫が得られ、抵抗力のないこどもが早期に感染症から守られる(感染症は待ってくれません!)ということなのです。
 注射を痛がる子供を見ているのはつらいものですが、単独接種であれ、同時接種であれ、注射を打つ本数の合計は同じですから、痛い思いをする回数は同じです。 むしろ同時接種のほうが痛い思いをした(痛い思いをさせた)日数を減らせるともいえるわけです。皆様、どのようにお感じになられましたでしょうか?もちろん同時接種は強制ではありませんのでご安心ください。

任意接種について
 おたふくかぜは現在でも任意接種ですが、これには歴史的な経緯があります。かつて日本ではMMRワクチン(麻疹、風疹、おたふくかぜの3種混合ワクチン)が使われていましたが、おたふくかぜワクチンの成分により、髄膜炎が発症したため、このワクチンは廃止の追い込まれてしまいました。その後、新しいおたふくかぜワクチンが開発され、現在任意で接種されていますが、問題となるような副反応は認められていません。おたふくかぜを発症した際、合併症として難聴、髄膜炎、膵炎などが知られており、これらはワクチンの副反応に比べれははるかに頻度が高く、重度です。決して軽視することはできない感染症なのです。任意というと接種しなくてもいいと受け取られかねませんが、決してそうではありません。小児科としては定期接種化を切に願うところですが、現状は有料でも接種してもらいたいワクチンと考えています。接種スケジュールは「予防接種スケジュールダウンロード」を参照して下さい。